2009年1月23日金曜日

なぞなぞ(文学と政治系):オバマ大統領の愛読書はなんでしょうか?

オバマは読書家として知られている。格調高い演説からもたくさん本を読んできたことがわかる。出歩くときもよく手に本を持っている(左の写真)。でもいまでも読む「愛読書」となると、相当限られてくる。何が愛読書なのか? ルモンドが調査してそれを公開した。この愛読書こそが今のオバマを形作っていると。
Les livres qui ont fait Obama - Blog LeMonde.fr: "Ce qui ne l’a pas empêché de se nourrir en permanence des tragédies de Shakespeare, de Moby Dick, des écrits de Lincoln, des essais du transcendantaliste Ralph Waldo Emerson, du Chant de Salomon de la nobélisée Toni Morrison, du Carnet d’or de Doris Lessing, des poèmes d’un autre nobélisé Derek Walcott, des mémoires de Gandhi, des textes du théologien protestant Reinhold Niebuhr qui exercèrent une forte influence sur Martin Luther King, et, plus récemment de Gilead (2004) le roman à succès de Marylinne Robinson ou de Team of rivals que l’historienne Doris Kearns Goodwin a consacré au génie politique d’Abraham Lincoln, “la” référence du nouveau président.

Pardon, on allait oublier, le principal, le livre des livres : la Bible, of course."
聖書とシェークスピア悲劇とマルティン・ルーサー・キングとエマーソンはわかるけれど、『白鯨(Moby Dick)』が上位に出てくるのはちょっと意外な感じ。これはどう解釈すればいいのか。散人流独断と偏見の読みときをご披露する:

おいらも『白鯨』を読んだばかり。そのときの感想はここ。でももう一度読み返してみて、この本をこんな風に解釈するのは「まだまだ幼稚であった」と実感。もっとエライ本なのです。

八木敏雄の解説に因れば D.H.ロレンスはモービー・ディック(エイハブに追われるクジラ)は「白色人種の最深奥に宿る血の実体」であり「メルヴィルは彼の人種が亡びること、理想主義が亡びること、『精神』が滅びることを知っていた」と書いているそうな(アメリカ古典文学研究 (講談社文芸文庫))。博覧強記のオバマだから当然ロレンスの解釈は承知した上で読んでいるのだろう。

モービー・ディックを追い回すピークオッド号の乗組員の国籍はまさに多様そのもの。船長と航海士こそアメリカ生まれのクエーカー教徒だが、銛打ち手(船長並みの給料を貰う上級船員)は、ポリネシアの食人種、中国人、黒人、アメリカインディアンという具合。水夫も世界中から集まっている。みんなそれぞれ超人的な体力と技能を有するくせ者揃い。それを一つにまとめているのがエイハブ船長の狂信的とも言える信念と指導力だが、エイハブ船長も認めているように結局は鯨油という金銭的利益とクジラへの狩猟民的闘争本能が持続性のある結束を生み出している。まさにアメリカ合衆国。

ただ建前もある。乗船するにはキリスト教徒でなければならない。主人公(イシュメール)の親友となった食人種の銛打ち(クイークェグ)は毎晩へんな偶像に礼拝する異教徒だが、主人公は「かれはあらゆる人の子とその魂が所属するところのあの万古不変の普遍(カトリック)教会の一員である」と船主を説得して乗船させるのである。これもまたアメリカ合衆国的。オバマが好きなのもわかるのである。

しかし困ったこともある。ピークオッド号とはアメリカ合衆国そのものであるとして、最後にピークオッド号(アメリカ合衆国)は白鯨(白色人種の精神)に敗れて沈没してしまうのである。これは困る。これは(オバマ的には)どう解釈すればいいのか。

それには八木敏雄のこの小説の構造分析がとても参考になる。この小説は最後のエピローグがそのまま最初の出だしに繋がるという「循環構造」になっているというのだ。実際読み終わってすぐに最初のページに戻ると、驚くなかれ実に自然に連結してしまうのだ。永久運動ならぬ「無限循環構造」の小説なのである。

今回はピークオッド号は白鯨に負けた。でも勝敗はしょせん確率の問題。何度もやっているうちに必ず勝つときが来る。そのうちにクイークェグの銛が白鯨の目を射抜く時が来るのだ。そこではじめてこの小説『白鯨』はお終いとなるのである。それこそD.H.ロレンスが予感していた結末だ。

オバマは「雑種(混血)のアメリカ」が、必ずローマ以来続いてきた「白色人種(ヨーロッパ)の支配」を打ち破り、世界の王者になる、そしてあり続けるという強い信念を持っているのだろうというお話し。おわり。


PS:メルヴィルはアジア人については「古い因習にとらわれたあげく、どん詰まりの糞詰まりになってしまった劣った人種」という表現を使っている。でも、普遍的な価値観を受け入れたアジア人はピークオッド号ですごい力を発揮するのである。これもオバマの価値観を考える上で面白い。

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