前言撤回をフランス語でパリノディという。もとはギリシャ語でソクラテスも堂々とこれをやってのけて有名な「想起説」を誕生させた。「君子豹変」のたとえもある。人間、歳とともに頑固になりやすい。拒絶の精神ばかり強まるよりは、前言を翻してても新しい楽しみを得るほうがよほどいい。思わず「フフフ」と笑ってしまった。きっと「あの人」のことを言っているに違いない。
最近世間を騒がせた大事件として、こんなのがある:
スタンダール『赤と黒』 新訳めぐり対立 「誤訳博覧会」「些末な論争」 (1/2ページ) - MSN産経ニュース:
"「まるで誤訳博覧会」-。光文社古典新訳文庫から昨年刊行されたスタンダールの『赤と黒』について、誤訳が数百カ所にのぼり、全面的な改訳が必要だと批判する書評が、スタンダールを研究する専門家でつくる日本スタンダール研究会の会報に掲載された。
新訳文庫の訳者は東京大学大学院准教授の野崎歓氏で、これを手厳しく批判したのは立命館大学教授の下川茂氏。"
源氏物語の最高の現代語訳は(日本現代語訳も含め)、アーサー・ウェイリーの英訳であるという。原文より美しいというのだからすごい。ところがこのアーサー・ウェイリーは日本を訪れたことすらない。一ページを原文で読んではページを閉じて瞑想し、やおら原文を見ずに英訳を書いた。当然誤訳だらけ。でも、この英訳本のおかげで、多くの人々が源氏物語に感動することになった(日本の大作家ですらこの英訳本で源氏物語に開眼したと告白している人がいる、谷崎潤一郎だったか)。もとより正確な翻訳なぞありえない。あまり頑固にはなりたくないものである。
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